「ギンコ、」 「何だ、」 冥い冥い夜の中、辺りに人里は無いので仕方なく野宿と決め込み、早いうちから横になった。仰向けになれば、まるで落ちてきそうなほどの星達。今にもこの身に突き刺さりそうだ。 星を見ながら煙草を噴かすと、隣に寝転がる相棒が空に手を伸ばし、俺の名を呼ぶ。 彼とは長い付き合いでもあるし短いといえば短い付き合いだ。この関係の名前を、俺は知らない。 いきなり目の前に現れた不思議な青年。流れるような漆黒の髪、どこにでもあるような色なのに彼の色はどこか懐かしく、温かい。髪は腰ほどまでに長く、まるでそこだけが夜のようだと感じた。そんな美しい髪を、長くて邪魔だと彼は呟いて、いつも後ろでひとつに縛っていた。今はその髪も梳かれ、野原の緑の中に彼の夜の色が溶け出している。 彼は俺の髪が好きだと言った。彼の髪の色とは正反対でありながら同種の俺の色を、好きだと。 呆気にとられた。何か裏があるのかと疑った。けれど彼の口からは嘘も悪意も無い賛辞の言葉だけで。何だか気を張り詰めているこっちが馬鹿らしくなってきたのを覚えてる。 蟲なのか人なのか良くわからない彼は、その瞬間から俺の心強い相棒となったのだった。 「俺のこの血は、本当に紅いのかなぁ」 そんな相棒の言葉に俺は隣に目をやり、また空を仰いだ。彼は自分を何だと思ってるのか、其れは何となくわかる。人ならその血は紅い。でも、蟲なら?蟲でも人でもなかったのなら? そんなこと言ったって、どうしようも無いんだけれど。だって、そうだろ?人も蟲もその認識は俺達が勝手に作り上げているに過ぎないんだから。 でも、こんなこと言えない。だってそれは自分の世界をこの世界を全てを崩してしまう論理だから、恐ろしくて。 なのに、其れは真実なのだ。誰かが言っていた。真実とは残酷なものである、と。正にその通りで。 「お前が紅いって思ってるのなら、紅いんだろ」 「そんなの、俺が紅を知らないからかもしれないじゃん」 「其れを言うなら俺だってそうだろ?誰も紅が紅なんて知らないさ」 「・・・・・・・・・・・そうだけど、」 空を掴もうとしていた手を引っ込めて、は拗ねたように俺を見た。俺は苦笑して、引っ込められたの手を握る。 「血が紅くても紅くなくても、ここにいて俺に手を握られて慰めの言葉が無いからって拗ねているのはなんだから、良いだろ」 そんな俺の言葉には目を見張り、その後呆れたように笑った。 「やっぱギンコって変わってる、」 俺はそうか?と返し、銜えていた煙草を携帯灰皿へ仕舞い、その夜は2人手を繋ぎながら深い眠りへと墜ちたのだった。 |