ドリーム小説













現魔王陛下以外で今、この城には2人の漆黒の容貌を持つ者がいる。
片方は双黒の大賢者である、村田健。略してムラケン、魔王であるユーリの大親友だ。
そしてもう一人、









「アニシナさーんv」

「まあ、またあなたですか。陛下の兄上様」




長い漆黒の髪を揺らしながら笑顔でこちらに駆け寄ってくる青年に、毒女と誰からも恐れられ日夜実験・研究を繰り返すマッドマジカリスト、通称赤い悪魔と呼ばれるフォンカーベルニコフ卿アニシナ嬢は見向きもせずに手振りだけで答える。
これは、此処何日か・・・いや、彼がこちらに来てアニシナ嬢に出会ったその時からの日常となっていた。
あまりつれない態度でも青年はめげることなく、笑顔のまま話しかける。




、だよ。アニシナさん」

「では、私に一体何の用ですか?度重なる研究や実験で忙しいのです」



言外に「テメェの相手なんて忙しくてやってられねぇんだよ、さっさとどっか行け」と言っているのと同じであるのにも拘らず、なおもといった青年はアニシナに話しかける。
もし、この場にいつもこの赤い悪魔の被害を受けているフォンクライスト卿ギュンターやフォンヴォルテール卿グヴェンダル氏がいたら卒倒するような根性だろう。魔王陛下の兄でなければ、即刻この悪魔に絞め殺されていることだろうから。いや、絞め殺すなど生ぬるい。彼らにはわかるだろう、いつも彼女の被害を受けている身であるから、彼女の邪魔をすればどんな報いがその身に待っているかなど。そう、恐ろしくて夜も寝むれないほどに。
しかしながら、はアニシナから実害を被った事もないし、魔王陛下の実の兄であるから被害がこの先その身に降りかかることも無い。それに周りは理解できないであろうが、はアニシナを大層気に入っている。女性が何よりの頂点に立つという彼女の考えも、女尊男卑主義者の自分としては諸手を挙げて大賛成だし、彼女の凛とした容貌も自分好みである(ああ、勿論異性としてだ)こんなこと聞いたら、卒倒する魔族が続出だろうが、幸いそういったことは気にしない性分であるし、逆に変なライバルがいなくて好都合。そういった経緯というか下心というか、とにかくそんなもので今日もはアニシナ嬢へと熱烈ラブコールをするのだった。



「ご一緒にお茶でも飲みません?ちょうどティータイムにはいい時間帯なことだし」



「只今の私は先程も言ったとおり、実験研究に忙しいのです。茶を飲む暇があれば私的好奇心を満たすことを優先します。ああ、あなたが私の素晴らしい研究の成果に貢献したいというのであれば話は別ですが、」



「うん、したい」







あまりに即答するに一瞬呆気にとられながらも、アニシナは其れを取り繕うかのように(彼女にしてみれば失態であったのだろう、いつもは自分が呆気にとらせる方でそれを良しとしてきたのだから)眼鏡をくいっ、と押し上げる。あぁ、そんな仕草も美しい(なんてが思っているのも露知らず)




「・・・・・それは素晴らしいことですね、では早速・・・といいたいところですが仮にも主である魔王陛下の兄上様を成功確率の低い実験の対象とするわけにはいきません。私、これでも魔族の端くれですので」

「そう?残念」

「私も非常に残念です。あちらの世界の住人にはどんな反応が起きるのか、この目で是非とも拝見したかったというのに」

「俺も。アニシナさんが実験対象に向ける愛情を、是非ともこの身で体験したかったのに」

「まあ、其れは素晴らしい精神ですね。ですが体験成される日が来るのは一生来ない事でしょう、ああ口惜しい」

「じゃあ、今日の所は退散するよ。実験、成功するといいね」

「励ましの言葉をどうもありがとうございます、ではまた今度」















アニシナの実験室の扉を閉め、寄りかかる。今日もあの人は孤高の存在だった。それに安堵しながら、寂しさとともに弟の待つ部屋へと足を運ぶ。

よし、部屋に着いたらウェラー卿コンラッドや魔王になってからというものモテまくりの恋愛百選魔な弟に助言でも請いてみようか。何せ相手は、あのアニシナ嬢だ。助っ人が2〜3人いても十分フェアだろう。



















は知らない。
隣の部屋で、偶然経緯を聞いていたユーリとヴォルフラムが青褪めていたことを。
そしてその原因である、彼が去った後の部屋で彼の想い人の赤い悪魔の呟きを。





「・・・まったく、この私があのような年端もいかない少年にいい様に弄ばれるとは・・・・長生きをしてみるものです。春もなかなか、馬鹿にしたものではないと解りましたしね」



















さて、最後に笑うのは誰?











  


からでも、振逃げ