焦が


ドリーム小説













「・・・・・・・何故、私など庇うのですか・・・殿」







雨の中、血塗れになったルキアが俯きながら俺に問う。傍には消えていく虚の肢体。そいつの爪もまた同じように真っ赤だ。雨で薄暗い中、その鮮烈とした色だけがそこに存在する様は、どこか異様だった。
彼女は泣いている。それは、俺が彼女を庇ってこんなにも血塗れだからだろうか?
そう、ルキアに着いている血は何一つ彼女から流れ落ちた血ではない。俺の血だ。死神で、もうとっくに生とはおさらばしている存在だって言うのに、その血は嫌というほど紅く、こんなもの見せられたらまだ自分が生きているのではないかと錯覚してしまうではないか。まったく、神は何故こんな中途半端物を作ったのだ。どうせなら何にも傷つかない心と体が欲しい。感情なんていらないから、こんなにも辛い顔を彼女にさせてしまうなら、そんなものいっそのことぐだぐだに引き裂いて。




ルキアが誰かを失うことを極端に恐れているのは知っている。それはあいつのせいなのだろう。その悪夢をまた思い出させてしまった俺も同罪だが。
それでも、ルキアの嗚咽を堪えながらも震える姿を見ると痛ましさとともに妬ましさがこの心を染めていく。今も、彼女の心の空白の玉座に君臨し続ける親友を憎らしいと思った。
それは嫉妬。彼女にそこまで想われていることへの。
それは羨望。其れほどまでに彼女の心を独占できる術を持つことへの。















「私、など・・・っ庇う価値など無いのですっ!!」







自嘲の笑みを浮かべる愚かな俺に、ルキアが縋りつく。俺はルキアの頭を撫でながら、俺にとってはルキアは全てと引き換えにするほど大切なんだ、と呟いた。
そんなこと無いと頭を振るルキアを思いっきり抱きしめる。強く、強く、繋ぎ止めるかのように。
腕の中で泣きじゃくる彼女に胸が痛みながらも幸せを感じる。今、この瞬間のルキアの全ては俺のものだった。あいつの、海燕のものではなく、俺のもの。あぁ、このまま消えてしまえればいいのに。そしたら、俺はどんなに幸せだろう。そんな最期をどれほど夢想し続けているのだろうか。
でも、そのときはまだ訪れない。いや、今すぐでも構わないのだけれど・・・いざ焦がれ続けた温もりが涙を流すのは嬉しいけれど、やっぱり辛いから。
俺は顔を上げたルキアに、






「ルキア、俺は大丈夫だから。絶対死なないよ。だから、早く帰ろう?」









そう、優しく微笑んだ。